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東京地方裁判所 昭和45年(借チ)3026号・昭43年(借チ)3012号 決定

〔主文〕申立人が本裁判確定の日から三カ月以内に相手方に対し金二五〇万円および昭和四五年八月以後右金員支払の月まで一カ月金九、四五〇円の割合による金員を支払うことを条件に、

1 申立人が、別紙目録(一)記載の土地賃借権を譲受けることを許可する。

2 本件土地賃借権の賃料を前記金員支払の日の翌月以降一カ月金一五、七五〇円(3.3平方米当り金一二五円)に改訂する。

3 申立人は、賃料を毎月末日限り相手方に持参又は送金して支払うこととし、申立人が前記の金員支払後本件賃貸借の賃料を三カ月分以上怠つた場合は、相手方は、催告を要せず本件賃貸借を解除することができ、この場合は、申立人は別紙目録(二)記載の建物を収去して、相手方に対し、別紙目録(一)記載中の土地を明渡さねばならない。

〔理由〕一、本件申立の要旨

1 吉森和子は、昭和三五年八月二二日相手方から別紙目録(一)記載中の土地(以下「本件土地」という。)を、普通建物所有の目的、期間昭和三五年八月二二日から昭和五四年八月二二日まで、賃料3.3平方米当り金二〇円の約で賃借し、同三六年一一月、目的を堅固な建物所有、賃料を3.3平方米当り金三〇円に変更し、本件土地上に別紙目録(二)記載の各建物(以下「本件(一)(二)(三)の建物」という。)を所有していた。

2 申立人は、競売により、昭和四三年五月一五日本件(一)(二)の建物を金一〇二〇万円で、昭和四五年七月二五日本件(三)の建物を金九四万円で取得したが、本件土地賃借権の譲受けにつき相手方の承諾がえられないので、右承諾に代わる許可の裁判を求める。

3 なお、相手方のなした契約解除の意思表示は、本件(一)(二)(三)の建物の所有権が吉森和子のものでなくなつた後同人に対しなされたもので無効であり、かりにそうでないとしても、それは、申立人が、右各建物を競落していることを知り、申立人を害する目的でなされたもので権利の濫用である。

二、相手方の答弁の要旨

申立人の申立理由のとおり本件土地を吉森和子に賃貸したことは認めるが、右賃貸借は賃料不払により解除された。すなわち、本件土地賃貸借契約には、賃料を毎月末日限り持参して支払う、賃料を三カ月分以上遅滞したときは催告なくして契約を解除することができる旨の約定が存するところ、吉森和子は、昭和四一年四月分以降の賃料の支払いをしないので、相手方は昭和四三年五月六日付内容証明郵便で、同人に対し、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、右意思表示は、同月九日同人に到達し、本件土地賃貸借契約は解除された。

三、当裁判所の判断

1 本件で取調べた資料によれば前記一の1、2の各事実を認めることができる。

相手方は、右賃貸借は賃料不払により解除されたと主張するので判断する。

前記資料によれば、本件土地賃貸借契約中には、「賃料は毎月末日限り相手方に持参のうえ支払う、賃料を三回以上支払わないときは、相手方は催告を要せずして契約を解除できる」旨の特約が存すること、本件賃貸借の賃料は、はじめ3.3平方米当り一カ月金二〇円であつたが、昭和三六年一一月目的変更の際金三〇円に、更に昭和三九年一月ごろから金五〇円に各改訂されていたところ、右地代は、昭和三八年一二月分までは吉森和子の父吉森孫一郎が相手方の親戚である松原知治を介して遅滞なく支払つてきたが、昭和三九年以降遅滞しがちになり、昭和四一年一月に金一〇万円を、昭和四一年四月三日に同年三月分までの賃料として金七一、一〇〇円をいずれも吉森和子の夫吉森信夫が相手方に持参して支払つたが、同年四月分以降の賃料を支払えなかつたこと、吉森和子とその夫は、同年四月から賃料を支払えなくなつた以降も、相手方を訪ねた際、あるいは相手方から口頭で賃料の請求をされた際、その支払いをしばらく待つてくれるように求め、相手方も、これに対し、猶予する旨答えていたこと、その後本件各建物につき競売開始決定され、同四三年三月ごろには申立人が相手方を訪ねて、競落する予定である旨を伝えたこと、相手方が、その後同年五月一日付内容証明郵便により吉森和子に対し、賃料の催告なく、前記特約により、契約解除の意思表示をし、右書面は同月九日に同人に到達したこと、申立人は、同月一五日本件(一)(二)の建物の競落代金を支払い所有権を取得し、競落以降の賃料を供託しているほか、競落前の分は、右競落後世田谷信用金庫において供託している各事実を認めることができる。

右認定の事実にたつて判断するに、本件賃貸借契約には「賃料を三回以上支払わないときは催告を要せず解除できる」旨の無催告解除約款が存し、前記解除の意思表示は、右特約に基づき、なされたものであり、右特約じたいは有効であるが、その行使は継続的な信頼関係を旨とする賃貸借の性質上からの制限を受けるものと解すべく、相手方が賃借人吉森に対し、一たん賃料の支払を猶予し、その猶予期間を特に明示しなかつた以上、相手方の意思にかかわりなく、右吉森としては、相当期間の猶予を期待しうるべきものであつて、前記約款が存するからといつて、借告なく解除することは許されず、更に期間を定めて支払いを催告したうえ、右期間の経過をまつて契約を解除すべき旨と解することが信義則に合する。したがつて、右催告なくして契約の解除をした前記意思表示は無効であつて、吉森は適法な賃借権を有していたといいうる。

しかして、申立人が適法に競売により本件(一)(二)(三)の各建物の所有権を取得したことは前示のとおりであるので、本件土地賃借権を譲受けることが賃貸人に不利となる慮れがあるか否かを判断する。前記資料によれば、申立人は、父の経営する三共商店に勤務し、不動産競売を業としているものであり、その具体的収入資産は不明であるが、本件各建物からの収入をもつてしても、本件賃料の支払能力はあり、また、その支払意思を確保するため主文第三項の借地条件を付することより、その経済的信用に欠けるところはない。更に申立人が、今後争いをおこし誠実な賃借人たることを期待しえない事情を認めるに足る具体的資料のない本件において、申立人が不動産競売を業としているという事実のみでは賃借人としての社会的信用を欠くとはいえず、本件譲受が賃貸人に不利となる慮れがあるとはいえないので、本件申立は、後記の条件の下に、これを認容すべきである。

2 附随の処分につき検討する。

鑑定委員会の意見(昭和四五年一二月一一日付)の要旨は、「申立人に金二五〇万円の財産上の給付をさせ、かつ、地代を一カ月金一五、七五〇円(3.3平方米当り金一二五円)に増額するのが相当である。すなわち、本件土地の更地価格を3.3平方米当り金二五万円、借地権割合をその八〇%と評価する。しかし、借地権譲渡の場合譲渡人が地主に対し名義書換料を支払う慣行は熟成しており、競売による場合は、競落人がこれを負担すべく、その割合は、借地権価格の一〇%前後を指標としているが、本件においてこの指標を修正すべき特段の事情もないので借地権価格の一〇%を給付額とする。

250,000×0.8×0.1×126=252≒250

地代は、昭和三九年一月に一カ月3.3平方米当り金五〇円に増額されたものであるが、右合意時点から現在までの更地価格の変動率に従い現地代を定めると上記のとおりとなる。」というにある。

ところで、本件申立は、競落手続が二回にわたつて行われたため二個の事件になつているが、もともと一個の借地契約に基づくものであるから、併合後は一括して一個の附随処分をなすべきである。しかして、申立人に命ずべき財産上の給付額、賃料の増額につき、本件賃貸借の経緯、特に目的変更に際し、相手方に金二〇万円の金員の支払がなされたことを考慮し、なお昭和四四年八月一日付の鑑定委員会の意見をも参考にし、鑑定委員会の前記意見を相当と認める。右意見の賃料は、近隣に比し、やや高額であるが、本件土地が堅固建物所有かつ共同住宅として最有効に使用されていることを考慮すると、相当たるを失わないものというべく、許可の効力発生後右金額に増額することとし、なお本件申立後も低額な賃料に甘んじてきた相手方とこれによつて利益をえている申立人の利害を考え、申立人が本件土地全部の使用を開始した後であることが明らかな本件(三)の建物競落の日の翌月から右効力発生の月まで、旧賃料との差額相当金を申立人に支払わせることとする。更に、申立人は、前記吉森和子の賃借契約上の義務を承継するものであるが、申立人の賃料の支払を確実にさせかつその支払方法を明確にするため、借地条件の一部を変更し、主文第三項の特約を付する。

(筧康生)

目録 (一)

(賃借権の内容)

1 目的土地 東京都世田谷区経堂五丁目七四九番地 宅地1,441.32平方米(四三六坪)のうち416.52平方米(一二六坪)

2 賃貸人 相手方

3 賃借人 申立人

4 成立 昭和三五年八月二二日(昭和三六年一一月目的変更)

5 目的 堅固な建物所有

6 賃料 3.3平方米当り金五〇円

目録 (二)

(建物)

(一) 東京都世田谷区経堂五丁目七四九番地

家屋番号 七四九番四

鉄筋コンクリートブロック造陸屋根三階建共同住宅

一、二階 各88.56平方米

三階  89.51平方米

(二) 同所同番地

家屋番号 七四九番七

鉄筋コンクリート造陸屋根四階建共同住宅

一、二、三階 各六三平方米

四階       7.20平方米

(三) 同所同番地

家屋番号 七四九番三

木造瓦葺平家建居宅

49.58平方米(15.00坪)

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